2023年4月14日 (金) 中日新聞朝刊 1面
↓2023年4月14日(金) 中日新聞HP より引用
歴史的な物価高を背景に、大手企業の今春闘で機運が高まった賃上げの波が、県内の中小企業にも及びつつある。人手不足が深刻化する中、従業員の生活を底支えする待遇改善で、人材のつなぎ留めを図る動きが相次ぐ。ただ、原材料価格の高騰や半導体などの部品不足の影響が重くのしかかる中、原資の確保に苦心する声も上がっている。
企業のホームページ作成などを手がける従業員五人のエムデザイン(浜松市中央区)は四月、正社員とパートの時給を一律で二百円上げた。賃上げ率は7・4~13・3%。全員が在宅勤務をしており、業務時の光熱費などの負担が増したためだ。デザイナーの能登寧音(ねね)さん(25)は「自分から上げてほしいとは言いづらいのでありがたい」と喜ぶ。
太田裕之代表(43)は「何もかもが値上がりする中で、中小が何もしないのはおかしい。社会的なメッセージを込め、勇気を出した」と強調する。原資は価格転嫁で対応し、二〇〇五年の創業以来、初めての値上げを決断。ページ更新などの料金を約二割引き上げた。
LPガス販売のエネジン(同)も、正社員約百七十人を対象に定期昇給に一律五千円程度を上乗せする。一律に底上げするベースアップ...
2020年7月9日 (木) 中日新聞朝刊 静岡けいざい欄
↓2020年7月9日(木) 中日新聞HP より引用
新型コロナウイルス感染症を機に多くの企業が導入したテレワーク。ホームページ(HP)制作などのエムデザイン(浜松市中央区)は、三年前から全従業員を在宅勤務とする制度を導入し、時間や場所にとらわれない働き方を実践している。自分の能力に応じて設定できる時給制を採用するなど賃金体系も工夫しており、従業員の満足度は高い。 (鈴木啓紀)
「スタッフ四人が事務所に集まったことは一度もないんですよ」。同社の太田裕之社長(41)は笑う。 自宅併設の事務所に“出勤”する太田社長以外は、それぞれの自宅を「ワークスペース」として働く。新型コロナの感染拡大下でも社屋を閉鎖したり出勤を制限したりする必要がなく、実際、業務にも遅れはなかったという。
「完全在宅」の制度を始めたのは二〇一七年四月。売り手市場で人材確保に苦労する中、「どこもやっていないことを打ち出したかった」と太田社長は話す。
賃金体系もユニークだ。社長以下全員が時給制で、金額は個々の従業員が決める仕組みにしている。
HP制作はデザイナーのほか、ページを見られるようにプログラミングするコーダー、顧客との窓口になるディレクターなど、一つの案件でも業務は多岐にわたる。同社は一人で何役もこなす人材は時給を高く設定できるようにしており、基本給八百九十円に上乗せする形で最大二千六百九十円まで支給する。
また、売り上げの約半分を給料に充てる方針を従業員が共有。例えば三十万円の案件を一人で担当する場合、十五万円を時給で割った数字が業務に充てられる時間と一目で分かり、完成までの目標が立てやすい。逆に、時間内に終わらない場合は時給が高すぎることになる。結果として従業員は、自分の能力に応じた適切な金額を設定することにつながるという。
時給は〇・一時間(六分)単位で発生するため、子育て中の従業員は、子どもが寝ている早朝や夜間の隙間の時間も有効に活用できる。在宅勤務で問題になりがちな従業員のコミュニケーション不足を防ぐため、従業員同士の昼食会の実費を毎月支給し、年四回は食事、タクシー代を会社が負担する食事会も開く。
従業員の評判は上々だ。今年一月に異業種から転職し、在宅で一日に平均五時間ほど働く女性(29)は「自由に働けて、デザインなどの勉強もできる」と歓迎。
一方で「在宅勤務は自発的に物事をやる力が必要。実力、やる気が試される」とも語る。
在宅勤務の導入以来、正式採用後の離職者は一人だけという。「新しいスタッフを育てるのはコストがかかる。狙い通りの結果だ」と胸を張る太田社長。「この働き方が広く理解されれば、世の中が変わる」と展望する。